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オーディオは宗教ではない、生き方の指針だ 門松を爆破せよ
Posted by - 2024.04.26,Fri
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Posted by Siina daioujou - 2010.09.01,Wed
20xx年某月某日、エロ・ゲーの新作返還を待ちわびる男の姿がそこにあった
待合室のソファーにもたれかかったト・ヨブレは疲れた様子のまま呟く


遅いじゃないか・・・クローツキン
疾風(早漏)イワンの、大層な呼び名に恥ずかしいだろう・・・



購入早々、エロ・ゲーをレポートコピーの借りとして奪われたト・ヨブレは
諦めの混じった台詞を呟くと、そのままソファーで友を待った


彼の新たな友人、クローツキン・ノミネンコフは

僅か7日で20本のエロ・ゲーを攻略すると謳われた
極寒シベリアの血を持つ、速戦の麒麟児である
そのキャラ攻略における緻密さと迅速さでは、友人達の中で他に並ぶものがない

そんな彼はト・ヨブレからかすめとった大ヤクザを僅か5時間で攻略すると豪語し
その期日にあわせてト・ヨブレを寮の一室に招いていたが

その日、ついにクローツキン・ノミネンコフは5時間の期限を守ることは出来ず
ト・ヨブレは失意のまま自室に戻ることとなった



彼が今だオーディオに、それほどの熱意を向けていない時代の一幕である





孤独のオーディオ 5話






2年の監獄生活の中で、ト・ヨブレがオーディオにおいて学んだものは少なかった
ミニコンポの存在にとりあえず満足し、それが個人の自由が保障されない空間において
けして無秩序に使うことが許されないことを悟ったからだ

その間彼はかつて覚えた、音楽への感動を忘れ去り
何処にでもいるただのエロ・ゲマーと成り下がっていた

事情を鑑みればやむおえぬところもあっただろう、しかし
その2年という時間を無為に使い切ったことを悟った時、ト・ヨブレは大いに後悔することとなった


オーオタにとって時間とは、すべからくゆっくりと流れるものである

オーディオ機材が販売される間隔はそれほど狭いものではない
必要な機材を購入するための大金も、時間をかけて蓄積せねばならないからだ

しかしそれはオーオタとなってからの話
ト・ヨブレが安易に過ごしたその年代は高性能でしかも安価な良質の機材達が
数多く生産終了した年であったため、後日オーオタとなったト・ヨブレは血の涙を流したものである


事実この時、最終ロットの機材達をセールで得られていたら
ト・ヨブレのオーオタとしてのスタートは大いに機材的に充実していただろう

そして狭量な視界のまま、大した研鑽を重ねることなく一介の3流オーオタとして
オーディオの深遠に触れえぬまま、平凡な人生を送っていたことだろう




それを気づかせたのは皮肉にも一人の3流オーオタの姿だった
いや、オーオタとはよばれないだろうし、彼もそう自称はしないだろう


彼はその監獄で貴族に位置する存在であった
裕福な生家を持ち、監獄の中にその身をおく事をよく周囲から訝しがられたものだ

彼の趣味は自称するところオーディオであり
傍目から見ても高額そうなオーディオセットを狭い部屋に押し込んでいた


機材の価値を言外に自慢する彼だが、しかし人間としては誠実な男であり
だからこそト・ヨブレと友人となりえたが
そのオーディオ機材の扱いは、当時何も知識のない彼ですら眉を顰めるものだ



ステレンレスラックにコロ足のついたそれは土台としてはあまり良いとはいえず
無秩序にその上に重ねられたアンプ類とプレイヤー
あろうことかその機材に乗せられたスピーカーの姿は素人目に見ても美しくなかった

友人はお世辞にも美的センスに優れているとはいえなかったが

今のト・ヨブレが見ればB&Wの小型スピーカーとマランツのセットと看破したそれは
確かにそこそこの品質なものである、格を見る目は大きく的を外さなかったようだ
しかしそれを選んだことは正解であり、同時に失敗でもあった



オーディオ界における定番的な組み合わせといわれるB&W+マランツだが

その定番さに反して、いずれもオーオタとしてすら使い手を選ぶ機材達であり
そも本格的オーディオシステムをミニコンポと同次元の使い方をする状態で
その価値が2割も出ているとは言いがたい

オーディオという存在が「ただ置けば鳴る」というものでは絶対ないことを
皮肉にも機材を愛し、良い音が出ると喜ぶ彼が証明していた




たしかにすばらしい、これがいいコンポというものか

「そうだろうト・ヨブレ、気に入ったCDをいれてもいいぞ」

ありがたい、その申し出を受けよう
しかし、妙にラックが震えるし 見るからに安定しておらんようだが

「コロはロックしてあるから気にすることもないだろう、それに見た目より重いから落ちることもない」

たしかに落ちてはこないだろうが・・・


「なに大したことではない気にするなト・ヨブレ、それよりどうだワインが手に入った
このご時世だ、ろくに美味いものも手にはいらんだろう、どうだ共に」

卿(けい)は俺が下戸と知ってそれを勧めているだろう、悪趣味なことだ

「少しは飲めるだろう?
一人でこれを胃に満たすには味気ない、たまには付き合うのも友人付き合いというものだ」

やれやれ、そうまで言われて断ることができぬだろうと卿はよくご存知のようだ、もらおうか




彼は幸か不幸か、おおらかで物事を気にしない男で
大きなシベリアの大地の血がそうさせるのか、クローツキン・ノミネンコフは得がたい友人であった

ト・ヨブレはたしかに信じがたいほど高音質なそれを聞いて驚きはしたが
音と一緒に肥満体の腹肉もかくやと震える機材達とラックに意識を大きく取られた

オーオタならば、それが異常なことであると悟ってしかるべきだろう
しかし彼は残念ながらオーオタではなかったし
部屋に響きわたるブーミー音や、後にフラッターエコーと呼ばれる異常にも
一切気を払うことはなかった

それは同時に隣人をも気にせぬということであったから
当時の彼の隣人達はまさに極限の中で生活することを、やむおえず強いられたことだろう






2年という時間は短い
気がつけば訓練期間は終了し、本格的に己の道を模索しなければならなかったト・ヨブレが選んだのは
友人達の誘いを断っての、恋しい祖国への帰還であった

永遠に友人達と騒いでいられるほど、人間の生は幸福にあふれてはいない
得がたい友人との関係は一生続くかもしれないが
伴侶との関係も一生となるかは当人努力次第であるのがいい例だ
社会人としての立場を得るということはこれらの取捨選択を迫られる一つの時期であり
それを否というなら、自由人としてそれなりのリスクを選び、自由人なりの責任を負うのである


社会人としての利点は労働の対価が比較的安定しているという点だ
労働し、対価を得てそれを何に使って生きるかはそれぞれの自由であるから

まだ見ぬ労働の対価とやらが、求人情報でみるよりも実はずっと少ないことをまだ知らない
若干20のト・ヨブレはありもしない大金の使い道を考え続けていた




いよいよ働いて金が得られることとなった
労働するのは恐ろしいが、それより小遣いに頼らずとも大金が手に入る、それが重要だ

さしあたってあの機材のようにいい音がでる機材が欲しい
まさかあんなすごい音を出すコンポが存在するとは

聞くにあれはミニコンポのように一式ではなく
個別に分けて売られているものを合体させているコンポらしい、しかもメーカーは問わぬそうだ


そういえばゴミ屋にミニコンポだけでなく、色々置いてあった気がする
あのコンポにくらべれば小さいが、ちゃんと3段か4段くらい機材が重ねてあった

きっとアンプとCDプレイヤーと何かよくわからないものに違いない、あれがよい





未来への期待を胸にト・ヨブレはついに祖国へ、帰還の途についた

幾度となく足を運ぶことになったそのゴミ屋で
まさしく彼の人生を変える存在に出会うだろうことを、ト・ヨブレはまだ知らない






人物紹介



クローツキン・ノミネンコフ


ロシア人の冷たい血が4分の1流れる巨漢、あまり祖父の面影はない
裕福な家庭に生まれながらオ・タクーへの道を選んだ異端者
疾風(早漏)イワンの異名を持つ、一代の豪傑である

オーオタではなく一般的にオーディオ好きというレベルに留まる人間の姿そのものであり
本来エコノミーより少し上のオーディオ機材を購入消費する一般的市民としてあるべき姿

こういった人々の提供する資金こそオーディオメーカーの命綱の筈であったが
その連鎖が断ち切られ、オーディオに人々が興味を失った時暗黒の時代は到来した

所持していた機材はB&Wのローグレードスピーカーとマランツの小型アンププレイヤーセット
オーオタから見ればエコノミーの部類だが
一般市民からみれば十分高額の範疇に入るだろうことは明白である




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Posted by Siina daioujou - 2010.08.29,Sun
エージングという言葉がある、これは諸説様々だが「慣れる」という意味であろうと思う

オーディオはこのエージングと呼ばれる「慣らし」があって始めて完全になると言われているが
たとえ機材がその環境に「慣れて」本来の性能を発揮したとしても

聞く側である人間が「慣れていない」のでは意味がまるでない

どんなに高額のすばらしい機材をいくつも得たとしても
使う側の人間がエイジングされていなければ宝の持ち腐れである

オーディオはたとえどんな願い、希望を人から向けられても
けして妄想に答えることはない、オーディオは使われる道具にすぎないからだ



孤独のオーディオ 4話




尾張、現在の愛知県味噌市にほとんど身の着のままト・ヨブレは降り立つ

学校に現れた悪魔のような面をした人身売買官に脅しつけられ
アスランの傭兵になるかのような面持ちで自ら赤紙にサインをした彼の荷物は財布だけだった

現在も続くこのマンハントによって刈り取られた未来の歯車候補達は
見渡す限りの畑しかない土地に投げ出され、監獄のごとき厚い壁と正門に守られた
訓練施設へ投げ込まれ、2年の月日を送るのだ


あまりの事態の急変ぶりに思考のおいつかなかったト・ヨブレが
身の着のままであったことを咎める者はそこにはいない、周り中そんな食い詰めた連中ばかりだった

口に出すことも憚られる環境での生活は苦痛の一言である
飢えと食中毒との狭間に生きた当時、しかし生きる活力に満ち溢れ


具体的には若いエロ・ゲマー達は少々過酷な環境でも生存するということだ



収監から一月もたてば、流石に部屋に物がないことを苦痛に感じるだろう

ト・ヨブレが実家に送ってくれるように頼んだのは
当時、米と味噌汁しか危険なく食えるものがなかった状態ですら

PCとミニコンポであった

かつて電撃PSを買い集めていたト・ヨブレは、しっかりオ・タクーになっていた




寮生活の大きな問題は部屋の狭さと壁の薄さである

レオパレスどころか殴れば穴が開きそうな薄い壁に向かって音楽を流そうものなら
低音どころかメロディが聞き取れる有様だ

実家のマンションのように壁と床がコンクリートでしっかり作ってある訳もなく
当然出せる音量にも大きな制限がついた

ヴォリュームを絞らなくてはいけない、という経験はト・ヨブレにとって初めてのことだ

そんな苦労を、どういうわけか同時に拉致されていた義理の兄弟に語って聞かせた




兄弟、これはゆゆしいことだ音楽がまるで聞けない
それに隣の部屋から小意気なラップが聞こえてくるのだ、それもどうやら本人だぞ

「それは僕も感じているよ兄弟
なにせロリ・アニーメを見ようにも隣からオ・ナンニの様子が実況中継だ、心が折れる」

壁がまるで意味をなさない、これではエロ・ゲーどころのか黄昏もできない


「しかしまだ僕達兄弟はいい、ここはこれでも一番いい部屋らしいから」

別寮の連中は二人部屋だ、お互いオ・タクーならいいが一般市民とセットになった日には

「悪夢の日々が僕達を襲うだろう、すぐにでも脱走しそうだ」





プライベートがダンボール並の壁で覆われただけの2年間
ト・ヨブレのオーディオ生活は停滞の極みにあった

スピーカーで音が流せないのだから、それは仕方のないことだったが
この圧迫された環境で学んだ大事なことが一つある

低い音は壁を貫通しやすく、高い音はそうではないということだ


音が振動でどうのこうのといった知識は当然当時のト・ヨブレには無い
ただ 聞こえてくるものが全て
隣から聞こえる小意気なラップよりも、映画の唸り音のほうが頭にきたというだけの話だ



オーディオをスピーカーでする

それは環境に最も左右される行為といっても過言ではない
音声を空間そのものを利用して表現するオーディオにとって

薄い壁やわらかい床がどれだけ悪影響を及ぼすか
どれだけ地域住民の皆様にご迷惑をおかけすることになるのか

オーディオは棲家に依存する、これはどうとりつくろっても揺るがしがたい事実なのだ

当然それらを最大限工夫し、最良を目指すこともオーディオの技ではある
事実ト・ヨブレの現在の棲家は6.5畳間であるが立派にオーオタの部屋である

しかし、たとえどんな使いこなしの技術の粋をこらしたとしても
建物が持つ物理的限界を超えることはできない


多くのオーオタが棲家を探すとき
壁や床を実に丹念に叩いている光景は、非常によくみるものだが

その拳で叩く小さな音には、これら苦い経験の一つ一つが詰まっている




そんな彼が当時対抗策として考えた策の一つがヘッドフォンだったが
メガネ族のト・ヨブレはそれを装備すれば苦痛を浴びるだけである

それにスピーカーから再生される、音が広がる様を知った後では
今更イヤホン同様、耳に直接音を流し込むことは憚られた

結局隣人の居ない時間を利用するという逼塞した生活が続くのである






そんな米と味噌だけの生活に慣れ始めた頃のある日
義兄弟と味噌市の中央区に出向いたト・ヨブレはオ・タクー問屋へ向かっていた

味噌市の人の海を掻き分けて電気街を歩く中、突然ポッカリ人の居ない空間に出る
そこには小汚い暖簾に、薄汚れたシャッターが半開きになった寂れた店

人が避けるようにしてその店先を通り過ぎていく中、ト・ヨブレは立ち止まった


店先に並んでいたのはどれも大きな直方体で
彼の目がそれを捉えた時何かは判らなかった、店頭の少しに奥に鎮座した巨大な家具のような物体

長年の使用感が染み付き、排気ガスにまみれ
人々の喧騒の中に埋もれながらも雄雄しいその姿は、今も思い出すことが出来る


ト・ヨブレはそのとき、疑問と興味を覚えつつもそれを知ろうとはしなかった

彼の興味は運命という名のエロ・ゲーに向いていたし

それが、スピーカーとは気づかなかったからだ



ト・ヨブレはそれに背を向けて歩き出した

その現物を目でみることができた唯一の機会であったと惜しむのは
立派なオーオタとなった頃の話である


その歴史を感じさせる巨体の持ち主は「オートグラフ」とよばれていた






用語解説



オートグラフ


英国オーディオメーカー「TANNOY」が1953年から製造した極大型のフロア型スピーカー
詳しい考察は様々なサイトにあるので割愛するが、信じがたいほどの巨大なスピーカーである

オーディオという存在にステレオという概念が存在する以前、モノラルサウンドの時代
スピーカーというものはすべからく巨大であった、これは当時の技術設計や概念では
十分な音声再生をするためには箱そのものを巨大化させるしか方法がなかったためである

スレテオに以降した後、とある革命的スピーカーの誕生から小型化の流れが加速する中でも
ハイ・オーディオとしての大型フロアタイプスピーカーはカタログの中に健在であった

オートグラフはその中でも異彩を放つ存在である

有名人が使用していたなど有名になる機会が多くあったためか
日本人オーオタにとって聞いたこともないのに音が神と安易に決め付けられやすい存在ではあるが
工場全焼による絶滅の危機とその奇跡の復活など
そのドラマチックなエピソードの数々は音楽性を抜きにしてもオーオタ達を魅了してやまない




Posted by Siina daioujou - 2010.08.27,Fri
人間の耳はよくできているもので、万人が音の優劣をある程度聞き分けることが可能だ
よく音痴と言われる人々も、多くは音痴である部分は自分が表現する時のみに作用する
人は生まれながらに良い音と悪い音の平均的区別がつくものなのだ

自分の耳はどんな音も聞き分けると大言を口にする人間は二種類いる

音を聞く訓練を自らに課し、聞き分けるという行為を意識して行う者と
ありもしない妄想を、さも聞き分けているフリをして取り繕う人間である




孤独のオーディオ 3話




その日彼が手に入れたのは、ごく普通のミニコンポであった
お値段僅か1万4千円、ケンウッド製のスリムな本体とスピーカーを持つ当時でさえ数年型落ちの中古品
それでもよかった、たったそれだけでも・・・今までのあらゆる音が過去の物となった

以来7年、幾度の転居をへて尚  それは今だに我が家で健在である



ミニコンポを手に入れてからト・ヨブレの生活は一変した

それまでCDは一度PCに入れ、それからプレイヤーで再生するという流れだったものが
コンポに入れるだけで再生可能な利便性は、一度取り込む手間をなくし
気に入ったものをデータとして残すという方法に変わった

PCを収めたラックの最上段に置かれたそれは手を伸ばせばCDを手軽に入れられ
選曲もリモコンで手軽に行え、ト・ヨブレはその買い物を満足するに十分であった


再び楽曲募集に意識が移ろうかというそんな時、少し変わった端子をコンポの裏に見つけたのである

銀色のリングに赤と白のプラスチックの突起が2つ、白字で横に「AUX」と刻まれている
中古の悲しさか、そのミニコンポには取扱説明書が無かったが
しばしの検索の後それが「音声データを入力するための端子」であることに気づいた


電撃のようにト・ヨブレの頭をアイディアが駆け抜ける




そうだ これがあればPCで再生する音を直接コンポで流すことができる

これはすごい発見だぞ しかもこれならゲームをやっている音もここから出せる



その事実に気づいた時、ト・ヨブレは只管喜んだ
CDを楽しむばかりかゲームも良い音で楽しめるからだ

それを既に悪友から盟友とよぶに相応しい関係になっていた男に
ト・ヨブレは珍しく興奮した様子で告げた




これならどんなゲームもいい音で楽しめる、すばらしいことだ 卿(けい)もやろうとは思わないのか?

「たしかによいことなのかもしれん、しかしト・ヨブレ・・・大事なことを忘れている」

何を忘れていると卿はいうのか? この事実を前にしてより大事ことなど見つからぬ

「我々がやっているのはエロ・ゲーだということだ、よもや艶声を大音量で妹に聞かせるわけにはいかぬ」

な、何を・・・

「許せ、ト・ヨブレ 俺は未だに妹と部屋を同じくしているのだ、俺に兄としての面子を立てさせてくれ」




以来、ト・ヨブレは彼にそれを勧めることをやめた
音楽を鳴らすという行為は、周囲の人間にもそれを聞かせるということでもある

自分が聞いているものが、他人にとって聞いてよいものである保証は無い
まして中学に上がる手前の少女に聞かせてよいものであろう筈が無い

彼は趣味を大事にはしても、兄であることは捨てなかった





盟友としての関係はその後も続いたが、別れの時は何時か訪れるものだ

高校を終え社会に飛び出そうとする二人の最後の会話はごく短いものだったことを思い出す




「エロ・ゲマーとしての俺は今日死ぬだろう、これから俺は公僕として寮に入る これも定めだ」

そこまで思いつめることもあるまい、働くからできなくなるということがあるものか

「いや、俺はいい兄ではなかったが せめてこれからは家族が誇れる人間になりたいのだ」

官憲が誇れる仕事だというのはわからなくもない、しかしそこまでする必要があるというのか

「それは俺もわからん、まあこれからのことなど全部わからんさ ト・ヨブレ、お前はこれから尾張か」

そうなるな、まさか名前と同じ会社にいくことになるとは思わなかったが


「官憲よりは稼げる仕事かもしれんぞ・・・そろそろ時間だ」

そうか、お別れだな 名残惜しいが

「ああ・・・ さらばだ、もう会うこともあるまい」






彼との出会いはエロ・ゲーよりもオ・タクーへの入り口よりも
思えば大きなものをト・ヨブレには与えた、オーディオという世界の入り口はまだ影も見えていなかったが

どちらにせよ、音楽に興味を持つ切欠を彼に与えたのは オーオタでもバンドマンでもなく
ただの家族思いのエロ・ゲーマーであった


クラシックに興味があるからオーディオを始めました
ジャズが好きで毎日聞きたいからオーディオを始めました
大変結構なことだ、実に他人から見れば格好いい理由だろう

しかし音楽を聴く、オーディオをする理由など何でもいいのである


誰にはばかることは無い「聞きたい物をもっと良い音で聞きたい」ただそれだけが理由であってしかるべきだ


今日ジャズ好きとして広く知られるト・ヨブレのスタートラインは
自称高尚なオーディオ者には褒められたものではなかったが

ただ自分一人が楽しむ、最もそれらしい理由であった






用語解説


ミニコンポ


本来オーディオシステムとは大まかに捉えて
プレイヤー(音源入力装置) アンプ(増幅器) スピーカー(音声再生装置) の3つで構成されているが
オーディオとして完成するにはこの3つの別々の機材を個別に用意する必要があった

これを簡略化し1つのセットとしてコンパクトに構成販売する目的で製作されている小型オーディオシステム
スピーカーと本体が一体化しているものはラジカセに分類される

オーオタの世界では安かろう悪かろうとして叩く対象 またはゴミシステムを指す隠語でもある

しかしながら簡単にそれなりの音質を安価に入手できるというハイオーディオには無い絶対的特長を持つ
これはまさしく音楽というものをより多くの人々に聞く機会を与えるための最高のスターターキットであり
かつて世話になったであろうこれらを指して貶める行為はオーディオをする者として厳に慎まれるべきである

ミニコンポの音に満足できなくなったその時、オーディオの世界の扉がようやく姿を現す





Posted by Siina daioujou - 2010.08.26,Thu
趣味は人の生をより輝かせるものだという
だがそれは本当の深みを知らぬ者の戯言にすぎない
輝く程度で済んでいるものが、趣味であろう筈が無いからだ

光届かぬ深遠の地獄こそが本当の趣味、オーディオはその最たる例の一つである



孤独のオーディオ 2話




エロ・ゲーの洗礼を受けることで
オ・タクーの道へ足を踏み入れたト・ヨブレだったが
そのゲームチョイスは異彩を放っていたといわざる終えない

18の男児ともあれば、己の若き欲望を解き放つべく
エロ・ゲーらしいものを選ぶのが通例
しかし彼が欲するところは主題歌およびゲーム中の音楽にある
現代でいうところの葉鍵に傾倒していくのは避けられぬ道であったろう

そんな中、卓上スピーカーを小さなサブウーハーのついた
「サウンドブラスター」に代替することで
ト・ヨブレの音楽を聞くことへの情熱は楽曲収集に移っていた



「ト・ヨブレ、お前が欲しがっていた葉のサウンドコレクションだ」

おおこれは確かに、卿(けい)を正に盟友と呼ばざるおえない

「たやすいことだ・・・そこでなト・ヨブレ 話があるのだ」

これの礼もある それなりの対価を用意できるつもりだ、言ってくれ

「共に来てほしい所がある、コミケというものを知っているか?」



年2回のお祭り騒ぎの存在を知ったのは18の夏のこと

色欲浄化の魔道書エロ・ドウジンを大量に確保するため、
己の分身として助けが欲しいという悪友の話だったが
ト・ヨブレの心を騒がしたのは音楽CDが大量に出品されている、ということだ

あわよくばプレイ中のMMORPG「黄昏」の
できればポニテプリのエロ・ドウジンがないかという欲望も秘め
某日、帝都へ向かう決意をしたのだった


そこであるCDと出会うこととなった、その名は「町田」
アトラクナクアのCDを逃したト・ヨブレが
やむなく手にとったそれを帰宅し再生したとき
不思議な感覚が芽生えたのである



妙だ、TU★TA★YAで借りるCDとはまるで違う感覚 歌ではない これは一体?
最後のこの曲、なんという澄んだ べるめい 一体何者だ



するとどうか
それまで満足していた筈の小型サブウーハーが唸るような空気を吐き出す音に

ト・ヨブレは瞬間的に耐えられなくなった


サブウーハーというものは本来卓上に置くような物ではない

低音・極低音を至近距離で発生させれば音楽としてのバランスを欠くのは当然である
小型であるがゆえに卓上におけてしまったことが
ト・ヨブレのその後の機材選択に大きく作用した
サブウーハーという存在が過剰に低音を発生させる邪魔者であると認識したからだ


足りない音域を補うという思想からすれば決して間違いとはいえない

しかし・・・ステレオオーディオという視点から見れば
サブウーハー排除は、ただ一つの回答であり
AV(オーディオビジュアル)に多い低音主義に染まらなかったのは
後のことを考えればとても大きな事件だったといえるだろう

事実、オーオタ修行の通過点の一つでもある
「多スピーカー主義」はAVへ流れてしまう原因の一つ
その存在の是非が常に問われるものであることには違いない



かくして、再び再生するものとしてのスピーカーに不満を得たト・ヨブレだったが
それなりに高いPCオーディオを買っていたことが彼の疑問を増幅した

店にあった最高額に近いスピーカーを用意したのにも関わらず
ということが納得できないのだ



こんなことでは、しかし高いPCスピーカーはサブウーハーがついてるものしかない
一体何にしたらいいんだ、イヤホンは長時間つけられない

CDRに焼いてウォークマンで聞かなくてはいけないのか・・・

CDに焼いて・・・ そうだ CDだ 親のコンポで聞けるじゃないか

あれはたしか壊れていた筈だし
自分で買えば良い、ゴミ屋にミニコンポとかいうのが一杯あった あれがよい



思いがけぬ発見から、リサイクル屋に並べてあった
「CDを入れる物とスピーカーが一緒になっている物」の存在を思い出したト・ヨブレ

それが、とても大きな一歩であることを知るのは数年後の話である




用語解説

多スピーカー主義

音声発生体であるスピーカーを
複数同時に可動させることで感じる臨場感を至上とする思想

AV(オーディオビジュアル)の複数チャンネル再生もこれに該当する
AVの本来の意義は映画などの映像と連動した音声再生に威力を発揮するものであって
本来音楽のそれを鑑賞するためのものではないため、オーディオと区別がされている

オーディオ修行におけるこれを指す場合多チャンネルではなく
「ステレオチャンネル」を無理やり2個以上のスピーカーで再生する行為のこと

アンプに大きな負荷を与えるばかりか
スピーカー1個づつの駆動力も大幅に低下するため
音質的には非常に大きなマイナスしかもたらさない

臨場感に飲まれず
音そのものの音質が悪いことに自ら気づくことがオーオタへの第一歩
明確に成果が判りやすい修行のため、オーオタ育成時にはよく見られる光景である


Posted by Siina daioujou - 2010.08.26,Thu

オーディオと出会ったのは、ようやく18になろうかといった頃であった
当時の稚拙な手記を辿れば、今も鮮やかにかつての有様が蘇る

オーディオにさえ手を出さなければもっと世間的リア充であったろうと
誰しもが指を刺して言うだろう、しかし彼は迷い無くこう答える「否、私は十分リア充だ」と


孤独のオーディオ 1話



オーディオ (Wikipedia)

高音質再生を追求する目的、あるいは、自分なりの好みの音楽性を実現する目的で構成された
趣味性の強いオーディオシステム、および、それを構成する各々の高級音響機器群のことを指す



高校最後の夏休みも間近というあくる日、私こと豊田無礼(とよたぶれい)は友人の部室に招かれた
その悪友は学園にエロ・ゲーを普及することに熱心な愛の司祭であり、エロソムリエであったが
部室の隅に置かれたPCから私に顔を向けた彼は自信に満ち溢れた凛々しい眼差しのまま


「ト・ヨブレ、いいものがあるファミコンゲー原理主義のお前でも満足できる、必ずな」


私に悪魔の囁きを告げたのだった
ト・ヨブレというのは当時から続く私の愛称であるが本来はトヨタデイブレイクというものを短縮したものだ

彼が手渡してきた箱にはAIRと書かれており、巨大な目が印象的な少女達が書かれていた
PCを手にしたばかりでエロ・ゲーの洗礼に触れる前のチェリーな私にも判る、これはオ・タクーへの誘い


まて、卿(けい)は私にエロ・ゲマーになれというのか
この身は電撃PSに捧げていると言ったはずだ お前の姦計にはのらぬ

「聞けト・ヨブレ、それはただのエロ・ゲーではない、数多くの男達を感動の渦に飲み込んだ偉大なものだ」
「物事の本質は上っ面で判断するものでもなかろう
それにそれは見ての通りお前の憎む痴漢物ではない、使うのは自由だ渡しておくぞ」

卿がそこまでして押し付けてくるというならば尋常のものではあるまい・・・
いいだろう、俺も男児だやらせてもらおう

「その言葉を待っていた、物語が佳境に差し迫ることを察したら一度止めろ
いいな? 必ずだ そして休み前の日に一気にケリをつけろ」

何故そのような慎重にせねばならぬのか?
不思議なことをいうものだエロ・ゲーは節足を尊ぶのではなかったか

「その必要があるからだ、まあ今知る必要もあるまい
おのずと理由はしれるだろう・・・話はこれまでだ、自宅でPCがお前をお待ちだ」


これが始まりの一歩であった

本来オ・タクーであればここから訓練されたエロ・ゲマーとしてさらに訓練された司祭になるのだろう
しかし、彼を魅了したのは・・・ゲームではなかったのである


はじめてみるゲームのOP 聞いたことも無い女性の歌声
音楽といえばユーロビートしか聞いたことの無かったト・ヨブレにとって
それはまさに驚愕の世界だった

その後しっかり友人の忠告を守らず 2.3日無気力な姿を学園に晒したト・ヨブレは考えた

あんな歌があるとは・・・しかもエロ・ゲーだという もっと聞きたい
いや あんなUSBでつながった小さなスピーカーではダメだ もっと・・・
そうだPC屋に大きいものがあった あれがよい

何度も聞き返し拳大程度の小さなスピーカー2つから鳴る音では到底満足できぬと彼は走り出した

それがその後続く、果て無き旅路の始まりとも知らずに・・・




登場人物

ト・ヨブレ(トヨタデイブレイク)

あろうことかゲームの音で音楽鑑賞に目覚める、オーディオの道は深く険しい
その門戸は今だ開かれず、しかし人はいずれ見るだろうその背中を
彼の長い旅路は今 始まったばかり・・・



プロフィール
HN:
Siina daioujou
性別:
男性
趣味:
オーディオ
自己紹介:
広島某所在住、オーディオを趣味とする
部屋が音聞く・寝る以外の行為不能
ゴミ箱があれば部屋としての面目は立つ
カウンター
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